海辺より。

日々の事を色々と綴ります

読了

宮沢賢治の「注文の多い料理店」読了。

短編集でしたので比較的読みやすかったです。
ほのぼのしたもの、不思議で切ないお話。様々な内容でした。


気のいい火山弾

稜(かど)のあるあまり大きくない黒い石たちとベゴという渾名を付けられた稜のない丸い大きな黒い石。ベゴという渾名を付けたのは稜のあるあまり大きくない黒い石たち。稜のないものはベゴしかいない。それゆえ稜ある石たちがベゴに対して毎日からかい、ばかにするのだ。だが何を言われてもベゴは反発もせずに愛想よく受け答えをする毎日。「一人だけ違うぞ、浮いているぞ、みんなと違うぞ」そういった見方をする人いるよなぁ…、同じでなければいけない、というのも違うのだが、と身近な事に置き換えながら読んでいました。ベゴはいつも気がいいのだけれど、お話の途中で急に口が悪くなる場面(実際は心の中で)があってちょっと面白かった。

"その癖、こいつらは、噴火で砕けて、まっくろな煙と一緒に、空へのぼった時は、みんな気絶していたのです。"

…こいつら、こいつらって!

ベゴも相当内心では腹も立つのだろう…と。笑ってしまいました。

結末としては実はベゴは立派な火山弾。大英博物館にだってないとても貴重な火山弾。学者達に東京帝国大学校地質学教室行と書かれた箱に入れられ、連れていかれます。

稜のあるあまり大きくない黒い石たちとお別れです。連れられて行く際に火山弾は「みなさん。さようなら…私の行くところは、ここのように明るい楽しいところではありません。けれども、私共は、みんな、自分でできることをしなければなりません。さようなら。みなさん」火山弾にとって「明るい楽しいところ」は皮肉めいた事だったのでしょうか。しかしこれから向かう地質学教室は自然はもちろん日光もあたらない場所。「保管」される事を考えれば確かに明るいところではない。読み終えて少し悲しい気持ちにもなりました。

おきなぐさ

"それはたしかに二つのうずのしゅげのたましいが天の方へ行ったからです。そしてもう追いつけなくなったときひばりはあのみじかい別れの歌を贈ったのだろうと思います。そんなら上へ行った二つの小さなたましいはどうなったか、私はそれは二つの小さな変光星になったと思います。なぜなら変光星はあるときは黒くて天文台からも見えずあるときは蟻が云ったように赤く光って見えるからです。"

たましいが変光星になる、その表現力に感動。

 さるのこしかけひかりの素足

楢夫という少年が2作共に出てきます。ひかりの素足で再度楢夫が出てきたときに「おお!楢夫また出てきた」とちょっと嬉しくなりましたが…結末が切なくて最後の二文は何度も繰り返し読んでしまいました。

 どの作品も自然があふれていて、空気や匂いも感じられるものだったように思います。現実には目にする事もない独自な世界観がそこにはあるけれど、それゆえ想像力を掻き立てられとても楽しめました。

 

 【追記】気のいい火山弾…

お話の途中で急に口が悪くなる場面(実際は心の中で)があってちょっと面白かった。

"その癖、こいつらは、噴火で砕けて、まっくろな煙と一緒に、空へのぼった時は、みんな気絶していたのです。"

これ、ベゴ石自身が思ったのではなくて宮沢賢治の言葉でしょうかね。でも最後の「明るい楽しいところ」に皮肉があるのなら少なからずベゴ石も腹が立っていたのかも。という事でそのままにしておきます。解釈はそれぞれ「同じでなければいけないことはない」で。